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研究機関紹介

シンポジウム報告

自由集会報告




研究機関紹介


山階鳥類研究所

平岡 考

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写真 1: 山階鳥類研究所の外観.
(財)山階鳥類研究所(以下、山階鳥研)は民間の財団法人で、日本で唯一の鳥類専門の研究所です。
 鳥類学者の山階芳麿博士(1900-1989)が、現在の東京都渋谷区南平台の私邸内に 1932 年に建てた「山階家鳥類標本館」がそのスタートで、収集した資料を社会に役立ててもらいたいという山階博士の考えから、1942 年に財団法人となりました。その後 1984 年に千葉県我孫子市の現在地に移転しました。
 現在、総裁の秋篠宮文仁親王殿下、島津久永理事長、山岸哲所長のもと 20 名の所員が在籍しており、このうち 16 名が研究員あるいは専門員として働いています。

将来構想と組織変更
 近年の山階鳥研の研究は、生態研究に偏っており、たとえば後述する、大きな研究資産である標本を活用した研究が活発に行われているわけではありませんでした。特色ある研究資産を生かしながら、公益法人としての存在価値を一層高めるために、目標を明確にし、それを達成する体制を整える必要がある、という問題意識のもと、2007 年に、今後の山階鳥研のあり方について検討する「山階鳥類研究所将来構想委員会」が設けられました。所外の学識経験者を委員に迎えたこの委員会による1年間の検討を経て、「将来構想」が策定されました。その根幹は、研究に関するふたつの基本目標と運営に関する基本目標です。これらは、
(1) 標本を活用した鳥類学の新分野を確立する。
(2) 鳥類の保全、ひいては生物多様性の維持、地球環境の保全に資する。
(3) 公益性を保持し、なお一層の推進を図る。
というものです。
この基本目標に従い、これまでの、鳥学研究室、資料室、標識研究室、広報室、事務局という組織構成から、2009 年 5 月 1 日付けで、自然誌研究室(上記 (1) を担当)、保全研究室(上記 (2) を担当; 鳥類標識センターを兼ねる)という 2 室に事務局(上記 (3) を担当)を加えた体制になりました。また研究員と専門員の峻別が行われました。研究員は、研究費を獲得して研究を行うことにおもに携わる職員です。これに対して、専門員は、標本や図書の収集管理、標識調査データの整備などに専門的な知識を生かして携わる職員という位置づけです。将来構想の根底には、「山階鳥研でもできる研究」から「山階鳥研でなければできない研究」への転換をはかり、組織をスリムダウンしてこれに打ち込むという考えがあります。

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写真 2: 亜鳴禽類をおさめた標本キャビネット.
鳥類標本
 山階鳥研の大きな特徴に質量ともに日本一の鳥類標本を所蔵していることが挙げられます。標本は剥製標本・骨格・巣・卵・液漬標本など約 6 万 9 千点に及びます。この数は、日本の所蔵機関では最大で、第 2 位から 6 位までの推定総数を合計した数よりも多いものです。ただし、鳥類標本コレクションとして世界最大といわれる自然史博物館(イギリス)の標本数は約 100 万点ですので、世界的な視点で見るとまだまだ上があります。
 所蔵標本の大部分を占めるのは、研究用剥製標本(いわゆる「仮剥製」)です。山階博士が、太平洋戦争以前に自身の分類学研究のために収集したものを中心に、購入、交換、寄贈等により集められたものが加わっています。世界中の標本がありますが、充実しているのは、日本、千島列島、サハリン、朝鮮半島、中国東北部、台湾、ミクロネシアなどです。
 標本材料の入手は古くは銃獲などによったわけですが、現在の新規作成のための材料は、一般市民や獣医師、鳥獣保護センター等から寄贈された斃死鳥や動物園から寄贈を受けた死亡鳥がほとんどです。後述のように、近年ではこういった鳥体から形態学的標本のほかに DNA 分析用の組織サンプルを採取しています。
 標本を利用するためには台帳が欠かせませんが、点数が多いことや、戦後長く財政が苦しい時代が続いていたために、所蔵標本全体の台帳は整備されておらず、利用の便は決してよくありませんでした。このため現在、標本データベースの作成を進めており、剥製標本全点に関するデータベースを年内にもウェブサイトで公開する予定です。
 標本データベースについては、全世界の生物多様性情報を誰もが自由に利用できることを目指して始められた、GBIF (地球規模生物多様性情報機構)という国際プロジェクトがあり、インターネット上での分散型データベースネットワークの構築に取り組んでいます。山階鳥研としても、収蔵標本データベース構築の次のステップとして、順次、データ形式の GBIF 対応化などを行って山階鳥研ウェブサイトで公開し、GBIF を介した情報の国際発信を進めるべく準備中です。
 また、既存の国際プロジェクトへの参画に加えて、標本を用いて、新しい切り口の生物多様性情報を創出し発信することを目指しています。
 具体的には、剥製標本からの骨格の形状データの取り出しと、鳥類の体色、卵色の定量化技術の開発に取り組みます。CT スキャンによって骨格の 3 次元形状データを剥製標本から取り出すことができれば、世界的な骨格標本の蓄積の不足を補うことができ、古生物学や動物考古学分野との協力によって、新たな学際的研究分野を作り出すことが可能と考えています。また、鳥類の色彩は定量化が難しいことが研究の大きなネックになっていましたが、近年発達してきた色彩の定量化技術を鳥類に適用できるように技術的な改良を加えることで、色彩の変異を地球的規模で調査し、その進化を問うという鳥類学のフロンティアに至る道が開かれると考えています。
 標本は、分類学や生態学、考古学、古生物学などの研究者や標識調査を行うバンダー、バードウォッチャー、美術愛好家などさまざまの方々に利用されています。

鳥類関係図書
 鳥類に関する図書のコレクションも山階鳥研の大きな研究資産です。これは、山階博士の蔵書に加えて、その後寄贈、交換、購入などによって収集してきたもので、およそ 3 万 9 千冊におよんでいます。イギリス鳥学会の Ibis、アメリカ鳥学会の Auk などが 100 年以上前の創刊当初からほぼすべて揃っている図書室は日本ではほかにないでしょう。こういった学術雑誌のほか、各分野の研究書や報告書、分類群ごとのモノグラフ、図鑑類、ハンドブックなどを所蔵しており、現在も継続して収集しています。国内の野鳥関係団体の会報類も寄贈していただいているものが多くあります。
 また、イギリス・ビクトリア朝の鳥類学者、ジョン・グールドの「アジア鳥類図譜」(全 7 巻)を初めとする著作、日本産鳥類の原記載を多く含む C・J・テミンクの「新編彩色鳥類図譜」(全 5 巻)など、美しい原色図版を含む 19 世紀の博物学書を所蔵していることも図書コレクションの大きな特徴です。
 近年、特に学術論文についてはインターネットでの PDF の公開が進み、冊子体での所蔵に以前ほどの価値がなくなってきたものもありますが、依然として多くの図書は有用かつ貴重なものです。標本と同じく図書についてもデータベース化を現在進めているところです。

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写真 3: 鳥類標識調査用の金属足環.
標識調査
 標本・図書とともに山階鳥研を特徴づけるものが鳥類標識調査です。ご存じのように番号付きの足環等の標識で個体識別して渡りや寿命、個体数の経年変化等を調査するもので、現在、環境省の委託事業として行われています。このために全国で約 450 名の協力調査員(バンダー)がボランティアで従事しており、山階鳥研は膨大なデータを収集管理し、取りまとめをおこなう日本のセンターの役割を果たしています。
 代表的な渡り鳥について標識調査の回収記録をまとめた「鳥類アトラス」(2002)は環境省生物多様性センターのウェブサイトから閲覧できます。成果は、近隣諸国との間で締結されている渡り鳥条約の改定に反映されるなど、保護施策の策定に活用されています。
 当初、渡り経路の解明がおもな目的だった標識調査ですが、長年にわたる各種鳥類の捕獲結果が環境モニタリングの資料として注目されています。山階鳥研では 1961 年から現在に至るまで 49 年間に実施された標識調査のデータを管理・保有しており、このうち 1984 年以降の新放鳥データ約 330 万件についてデジタル化を終了しています。これらは鳥類に関する詳細な分布情報であり、環境の変遷を反映している重要なデータです。このデータの分析により長期の環境変動などのモニタリングに役立てるため、分析手法を探るととともに、引き続き紙媒体のデータを遡ってデジタル化する作業を進めています。現在特に、1961-71 年のデータに焦点をあててデジタル化を進め、分布情報として GBIF での国際発信を目指しているところです。

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写真 4: 拾得斃死鳥から DNA を採取.
DNA 研究
山階鳥研では 10 年程前から、標本材料等から得た DNA 採取用の組織サンプルを保存しています。現在 8,000 点を越えるサンプルを保有しており、これらを用いて現在いくつかの仕事を行っています。
 組織サンプルのうち、環境省のレッドデータブック掲載種についてミトコンドリア DNA の全塩基配列の決定を行っています。これは希少種の遺伝情報を保全のための基礎的データとして解明しておくという趣旨です。
 また山階鳥研は、国立科学博物館とともに、国際バーコードオブライフという、世界の生物の DNA を調査する国際プロジェクトに参加して、日本産鳥類に関するデータ収集を進めています。このプロジェクトの核をなす技術は DNA バーコーディングと呼ばれるもので、動物種ではミトコンドリア DNA の COI 領域の特定部位の塩基配列を解読することにより、微小なサンプルからでも生物種の同定を可能にしようとするものです。このために所蔵の組織サンプルから該当部位の塩基配列の解読を進め、プロジェクトのデータベースに登録しています。このプロジェクトの特徴は、DNA を採取した個体の証拠標本を保存することを要求している点で、形態と DNA を対応づけることにより、同定誤り等によるトラブルを回避でき、得られたデータを分類学にフィードバックすることも可能になります。
 ミトコンドリア DNA を用いた研究としてさらに、猛禽類を対象として、種内の遺伝的多様性を調べる研究も行っています。日本国内のクマタカとオオタカについて、拾得された羽毛から取り出した DNA を主に分析して行ったもので、遺伝的多様性だけを見る限り、クマタカもオオタカも危機的な状況にはない、という結果が得られています。もちろん、猛禽類の保全に関してはさまざまの手法で得られたデータを総合して判断することが必要です。

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写真 5: 移送したアホウドリのヒナへの給餌(聟島).
希少種の保護と研究
 明治時代以降、羽毛採取のために乱獲され激減した絶滅危惧種、アホウドリの保護活動に、山階鳥研は取り組んでいます。現在、昭和初期まで繁殖地であった小笠原諸島聟島列島への再導入プロジェクトを進めています。このために、伊豆諸島鳥島から生後約 35 日齢のヒナをヘリコプターで聟島へ移送し、人工飼育して巣立たせる試みを 5 年計画で行っています。アホウドリ類の習性から、巣立ったヒナが繁殖年齢に達したときに聟島に帰って繁殖することが期待され、これにより繁殖地の形成を促進しようという計画です。2008 年の繁殖期に 10 羽、2009 年に 15 羽のアホウドリのヒナをヘリコプターで聟島へ移送し、研究員らがキャンプ生活をして人工飼育した結果、両年ともすべての個体が巣立つという成果を得ることができました。飼育に際しては、体重や各部位の測定と摂取した栄養と水分の記録、血液検査による生理学的データ取得によって、健康管理を行うとともに人工飼育に関する基礎データを収集しています。
 ヤンバルクイナは 1981 年に山階鳥研のスタッフによって、沖縄島北部から新種として記載されました。その後、1990 年代から、外来生物マングースやノネコによる捕食や、交通事故等が原因と考えられる分布域の縮小が始まり、絶滅が危惧されています。山階鳥研では、ヤンバルクイナの生態研究を行うとともに、プレイバック法による分布調査や生息数の推定を行っており、国や自治体による保護施策の策定に協力しています。

このほかにも、多くの所員が個人研究を行っています。所員の論文として、2005 年から現在までに英文論文が 23 件、和文論文が 9 件、紀要類や後述の山階鳥類学雑誌の報告に英文和文含めて 18 件が発表されています。また鳥インフルエンザに関係する捕獲調査や、違法飼育防止のための野鳥の識別法の研究などさまざまの受託研究も行っています。

山階鳥類学雑誌
 山階鳥研では、学術誌「山階鳥類学雑誌」を年 2 回発行しており、鳥類学に関する所内外の研究論文を掲載しています。「山階鳥類研究所研究報告」の名称から 2003 年に改称しました。
 雑誌の改称とあわせ、「報告」という論文のジャンルを新設しました。これは、論議をしない、結果だけの論文で、査読はなく、採否は編集長が決定します。通常の原著論文や短報に厳しい査読制度や英文アブストラクト作成の要求があるために、学術雑誌への投稿をあきらめている著者の、貴重なデータを投稿してもらおうという考えから生まれたジャンルです。もちろん査読付きの原著論文と短報も従来通り掲載しています。
 なお、本誌掲載論文の PDF は、創刊から、現在より 2 年前までのものが、科学技術振興機構の J-STAGE で公開されています。

 

おわりに
 最後にいくつかお願いがあります。
 鳥類標識調査では、足環の回収がされて初めて渡り経路や寿命についての知見が得られます。足環付きの鳥を捕獲されたり、死体を拾得されたりした方はぜひご連絡ください。カラーマーキングされた野鳥を観察撮影された場合もご一報ください。
 また、足環なしの野鳥の死体も研究用標本とDNAサンプル採取のために収集していますので、拾得された方はご一報ください。
 標本・図書の利用を希望される方はかならず事前にご相談ください。著作権法等の法令の規制や資料保存のためにご希望の利用ができないことがあることをご承知おきください。
 アホウドリの小笠原諸島再導入プロジェクトでは、本年に引き続き来シーズンの聟島での飼育ボランティアを募集しています(2009 年 11 月末締切)。これについては山階鳥研のウェブサイトをご覧下さい。
 「鳥学通信」の読者の方にはご説明する必要はないかもしれませんが、山階鳥研は民間の団体です。保全や研究の継続のために一般からのご寄附や賛助会員の会費収入が大きな資金源となっています。ご支援くださる賛助会員(個人)の皆さんには一般向けの「山階鳥研 NEWS」(隔月刊行)と研究者向けの「山階鳥類学雑誌」(年 2 回刊行)のいずれかを選択していただく仕組みになっています。両方ご希望の方は 1.5 口の会費となります。山階鳥研は「特定公益増進法人」に認定されており、ご寄附には税制上の優遇措置が適用されます。山階鳥研の活動をご支援いただけますようよろしくお願いします。

山階鳥研ウエブサイト:http://www.yamashina.or.jp/


受付日2009.10.28

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シンポジウム報告


2009 年度鳥学会函館大会シンポジウム報告

オーガナイザー:高橋晃周(国立極地研究所)・依田憲(名古屋大学・院・環境)
文責:高橋晃周


はじめに
 2009 年度鳥学会函館大会のシンポジウムは、大会最終日 9 月 22 日に函館国際ホテルの会場でおこなわれました。今回の大会シンポジウムのテーマは「バイオロギングによる鳥類研究」。バイオロギング、というのはなじみのない言葉ではないかと思いますが、動物に小型の記録計を取り付け、動物の行動や周囲の環境を測定・記録する技術のことです。バイオ(生物)とロギング(記録をとる)を合わせた、日本人研究者による造語ですが、現在では国際的な学術用語 Biologging として使われています。
 このバイオロギング技術を使った鳥類の研究は、海の上での行動を観察することが難しい海鳥類を中心に進んできました。しかし近年では、装置の小型化がすすみ、さまざまな分類群への応用が始まりつつあります。こうした最近の研究の進展を紹介したいと考え、今回のシンポジウムを企画しました。以下、5題の発表の内容とコメンテーターの方から頂いたコメントを簡単に紹介させていただきたいと思います。

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図: バイオロギングがカバーする研究領域の概念図.
依田憲「バイオロギングによる鳥類研究:概説」
まず名古屋大学の依田さんから、バイオロギングによる鳥類研究の最近の進展について、駆け足でレビューし、紹介していただきました。バイオロギングはいま様々な研究分野で使われています。動物が使っている「環境」の計測、認知・運動性能・生理機能といった動物の「能力」の計測、採餌行動・移動・社会行動といった「行動」の計測。こうした動物の行動にかかわる様々な要因を個体ベースのデータとして計測し、動物の生態に関わる要因の相互関係を網羅的に明らかにできる可能性がある、というのがバイオロギングの特徴です(図)。
 海鳥類は体サイズが大きい種類が多く、記録計を装着する研究に好都合です。また、集団で繁殖し、繁殖地に繰り返し戻ってくるため、記録計の回収にも向いています。このため海鳥類の研究がレビューの中でも多くの割合を占めました。しかし、北米のムラサキツバメの渡り経路をジオロケータで調べた研究(Stutchbury et al. 2009 Science)や、カレドニアカラスの道具使用をビデオトラッキングで調べた研究(Rutz et al. 2007 Science)、飛行中のハヤブサの上昇気流の利用の仕方を GPS データロガーで調べた研究(Akos et al. 2008 PNAS)などを紹介していただき、海鳥以外の鳥類でもバイオロギングが積極的に使われつつある現状を実感していただけたのではないかと思います。
 現時点でのバイオロギング技術は、装置の大きさの制約から、とれるパラメータ数に制限があります。今後こうした技術的な問題を解決していくことで、動物の環境・認知・運動・生理・採餌・移動・社会といった全ての情報を同一個体から取得することができれば、動物個体をベースに様々な分野を融合した新しい研究領域が拓けるのではないか、というのが依田さんをはじめとするバイオロギングを使っている研究者たちの将来の希望です。

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写真 1: シンポジウム会場の様子.
高橋晃周「ペンギンの採餌生態学」
 次に、国立極地研の高橋から、ペンギンの採餌行動について、嘴角度ロガー(Takahashi et al. 2004 Mar Ornithol)や加速度ロガー(Yoda et al. 2001 J Exp Biol) GPS-深度データロガーといった最新のバイオロギング手法を使った研究を紹介しました。採餌生態学には幅広い研究テーマがありますが、その中でも、ペンギンがどうやって水中の餌を探しているのか、という問題に焦点をあてた研究を紹介しました。
 繁殖期間中、ペンギンは陸上の繁殖地から、海へと繰り返し餌をとりに出かけ(採餌トリップ)、その途中で潜水を繰り返し行っています。ペンギンの嘴にとりつけた嘴角度ロガーによって、ペンギンの潜水中のエサ取りの成功・不成功をモニタリングしたところ、直前の潜水でエサ取りの成功度が高かったときには、ペンギンが続けて潜水を行うこと、早く水中の餌パッチに到達するよう潜水の角度を変えていることがわかりました。すなわち、ペンギンは餌の探索において、「盲打ち」で潜水を行っているわけではなく、直前の採餌経験に基づいて行動を変えている、ということが明らかになりました。バイオロギングをうまく使うことで、行動そのものだけではなく、過去の経験に基づく意思決定といった、認知能力に関係した研究にもアプローチできる可能性があります。

綿貫豊「深く潜水する海鳥の推進調節」
 次に、北大水産科学研究院の綿貫さんから、加速度データロガーを使った潜水性海鳥類の運動のバイオメカニクスに関する研究(Watanuki et al. 2003 Proc R Soc B; Watanuki et al. 2006 J Exp Biol)について話していただきました。潜水性海鳥類が餌をとるために潜る水中の世界は、空気中と違い、遊泳抵抗、浮力といった様々な物理的な制約が働いています。この物理的な制約の中で、いかに効率的な運動・移動を達成するかという問題に焦点があてられました。
 運動にかかわるバイオメカニクスは、バイオロギングの導入によって急速に研究が進んだ分野です。加速度データロガーを使うと、記録計を背負った動物の一回一回の羽ばたきや足こぎを高い時間分解能でとらえることができます。マカロニペンギン、ハシブトウミガラス、アオメウという運動性能の異なる海鳥の水中での羽ばたき・足こぎ頻度の変化を調べたところ、種ごとに異なる形態(推進のための筋肉の付き方)や浮力にあわせて推進の調節の仕方が異なっていたことが報告されました。

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写真 2: シンポジウム会場の様子.
新妻靖章「ウミガラスの生理生態学」
次に名城大学農学部の新妻さんから、海鳥類の潜水中の体温調節、酸素節約といった生理生態学に関する研究を紹介していただきました。生理的なパラメータは直接観察することができず、機器による計測を行う必要があるため、古くからバイオロギングが使われてきた研究分野です。北極・南極といった「寒い」海で、運動のための体温を保持しつつ、酸素を節約して長く潜るために海鳥はどのような生理的な調節を行っているか、という問題に焦点があてられました。
 まず新妻さんご自身のハシブトウミガラスの研究(Niizuma et al. 2007 Comp Physiol Biochem A)について詳しく紹介がされました。ウミガラスの体温を計測するため小型の温度データロガーを手術によって体内に埋め込んだところ、ウミガラスは、潜水中、体の周辺部分への血流を押さえ、体芯部に血流を集中させるという、血流調節を行っていることが明らかになりました。これにより、ウミガラスは潜水中の運動のために必要な部位に優先的に血液を回し、効率的に酸素を使用していることが示唆されました。このほか、酸素分圧を計測するデータロガーによって、潜水中のエンペラーペンギンの酸素使用を詳しく調べた研究、コルチコステロンといった内分泌物質とアホウドリの採餌行動の関係に関する研究など、生理機能と採餌行動に関する最近の研究も紹介していただきました。

依田憲・山本誉士「オオミズナギドリの移動生態学」
最後に、名古屋大学の依田さん、総合研究大学院大学の山本さんからオオミズナギドリの移動に関する研究を紹介していただきました。現在、動物の移動に関する研究は、動物の移動軌跡を連続的に記録できる GPS データロガー、ジオロケータといった手法の進展により、急速に変化しつつあります。
 依田さんからは、日本の沿岸で繁殖するオオミズナギドリに装着した GPS データロガーにより秒単位で海上の移動を追跡した、現在進行中の研究内容が紹介されました。秒単位で移動を追跡することにより、ダイナミックソアリングのような詳細な飛翔行動まで記録できること、衛星リモートセンシングデータと組み合わせることで、飛翔ルート選択への風の影響を明らかに出来ることなどが報告されました。
 山本さんからは、依田さんの発表よりもずっと長い時間スケールでオオミズナギドリの移動を追跡した研究が紹介されました。小型のジオロケータ(Yamamoto et al. 2008 Anim Behav)をオオミズナギドリの足に装着することにより、繁殖終了後も含めた一年間の移動を追跡することができます。これにより、岩手県三貫島で繁殖するオオミズナギドリが繁殖終了後、主にパプアニューギニア沖の海域まで飛翔し越冬していること、越冬場所には繁殖地間の違いが大きいことなどが報告されました。GPS とジオロケータという2つの記録装置を用いることで、秒単位から一年単位まで様々な時間スケールでの移動に関する研究が可能となり、今後これらの知見がどのように統合されていくか、期待したいところです。

高木昌興・植田睦之「コメント」
 5 題の発表のあと、コメンテーターを引き受けてくださった大阪市大の高木昌興さん、バードリサーチの植田睦之さんから全体的なコメントをいただきました。高木さん、植田さんのお二人とも、今後さらに記録計が小型化されることでいろいろな鳥類に応用できるようになることへの期待、また直接観察・レーダーによる観測など、他の手法と組み合わせることでさらに有効な研究が出来るのではないかという指摘をいただきました。高木さんからは、道具があるから研究しようという姿勢になっていないか、やはり取り組むべき研究テーマなり仮説なりをきちんと立ててから研究する姿勢を大事にする必要があるという暖かいご批判もいただきました。この指摘は私にとって耳が痛い部分でもあり、こうしたバイオロギングを使った研究は、道具がなければ研究できない=>道具があるからこの研究ができる、といった側面がどうしても出てきます。機器が開発できたから研究をする、といった受け身の姿勢ではなく、むしろこの研究を達成するためにはどんな機器を開発すべきかといった方向にもっていかなくては、とあらためて考える機会となりました。

最後に
 シンポジウム全体を通して、発表時間が予定よりオーバーしてしまい、質問の時間がとれなかったことを、参加していただいた方々にこの場をかりてお詫びいたします。またシンポジウム後の懇親会でご質問、コメントなどいただきました皆様、どうもありがとうございました。
 バイオロギングについては、日本バイオロギング研究会という研究会があり、様々な情報交換を行っております。また、この研究会ではバイオロギングを使った最近の研究成果を「動物たちの不思議に迫るバイオロギング」という本にまとめました。さらに詳しくバイオロギングについて関心のある方にご覧いただければ幸いです。



受付日2009.10.14

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自由集会報告


急増するガン・ハクチョウ・カモ類の原因や影響を巡る鳥学的課題

企画:嶋田哲郎・須川恒・呉地正行
文:嶋田哲郎


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写真.ガンカモ類自由集会の様子.
 1999 年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立して毎年鳥学会大会の際に集会を開いてきました.

 11 回目の今回はガンカモ類の中で,近年越冬数を増加させているガンカモ類に注目し,その現状,増加原因として考えられる要因あるいは研究課題,増加した個体群と資源利用との関係について話題提供をいただき,増加したこれらの水鳥を巡る鳥学的課題を把握することを目的としました.

 当日は 30 名ほどの方々にご参加いただきました(写真).なお,この集会の要旨を今までの集会とともに以下のページに掲載していますのでご覧下さい.
http://www.jawgp.org/anet/jg014.htm

ガン,ハクチョウ類の個体数変動の動向(呉地正行/日本雁を保護する会)
 ガン類,ハクチョウ類では増加傾向が認められ,特にマガン,コハクチョウでその傾向が顕著であった(図 1).カモ類では一定または漸増傾向が認められた.種としては,オシドリ,マガモ,ヒドリガモ,オカヨシガモであった(図 2a-c).

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図 1.ガン,ハクチョウ類の個体数変動.
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図 2a.カモ類の個体数変動(1).
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図 2b.カモ類の個体数変動(2).
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図 2c.カモ類の個体数変動(3).
ガン,ハクチョウ類の個体数急増の原因を探る
 繁殖地における温暖化の観点(呉地正行)では,これまで中継地であったマガンの飛来地が越冬地化していること,伊豆沼・蕪栗沼周辺で越冬するマガンの繁殖地を含むベーリング海沿岸で,気温が上昇していることが報告された.気温上昇による早い雪解けがマガンの繁殖成功率を高めている可能性がある.
 越冬地における食物資源量の観点(嶋田哲郎/宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団・溝田智俊/岩手大学)では,1980-90 年代の圃場整備の進捗率の増加にともなう落ち籾資源量の増加,1990 年代後半の大豆や麦などの転作田の増加にともなう落ち大豆や起生期の麦類の増加がマガンの個体数急増の背景として考えられた.

増加を巡るトピック
 ガンカモ類の生息調査データに見る個体数インデックスの変化(神山和夫/バードリサーチ・笠原里恵/自然環境研究センター)では,1996 年以降のガンカモ類の生息調査データから作成した個体数インデックスと地域別の増減傾向,その際に使われる一般化線形モデルにおいて欠損データの補間がどの程度まで有効か,について検証を行った.事例として分析された結果では,むしろ減少を示す種が目立った.
 越後平野一帯におけるコハクチョウ・カモ類の個体数変動と圃場整備(渡辺朝一/水戸市)では,越後平野では 1980 年代後半からコハクチョウ,マガモの越冬個体数の増加傾向が顕著であった.コハクチョウの主要な食物資源は落ち籾と越年生の草本であり,これらは機械化と乾田化によってそれぞれ増えたものであると考えられる.
 琵琶湖における増加例(水草や底生生物を採食するカモ類,クイナ科オオバン)(橋本啓史/名城大学・須川恒/龍谷大学)では,ここ 20 年間の越冬水鳥の調査から,ヒドリガモ,オカヨシガモ,ホシハジロ,キンクロハジロ,オオバンの増加が顕著であり,琵琶湖湖岸の資源利用との関係を考察した.

まとめ
 藤岡正博氏(筑波大学)のコメントにもあったとおり,個体数急増の要因は温暖化か食物資源量か,白黒つけるような問題ではなく,引き続き注視していくべき課題です.その中でモニタリングは重要となりますが,今回ご紹介いただいた一般線型化モデルを使った個体数の増減傾向の評価は非常に有効な方法であり,参考になりました.さらに,温暖化,食物資源量いずれにしても,それぞれの要因は状況証拠であり,たとえば食物資源量の増加がどのようなプロセスで個体数増加に結びつくのか,を今後明らかにする必要があります.なお,ガン・ハクチョウ類の食物資源として,関東で顕著な秋耕,カモ類については琵琶湖のような湖沼生態系における水草などの劇的な変化に注目する必要を感じました.
 最後に,自由集会を終えてさまざまな方と議論する中で,ガンカモ類の資源利用に関するデータが各地で蓄積されつつあることを感じました.それらを統合してガンカモ類における資源利用の地域間差異のような形で全体的にまとめることが可能な時期となりつつあると思いました.


受付日2009.10.02

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和文論文をスムーズに掲載する方法

企画:濱尾章二(国立科学博物館・自然教育園)・新妻靖章(名城大学・農)
文:濱尾章二

はじめに
 2008 年度大会時の和文誌編集委員会で、投稿から掲載に至るまでの編集作業の困難さが話題となった。論文執筆経験の少ない投稿者から査読に回すのが困難な原稿が投稿されることがある、査読コメントへの対応のしかたが理解されていないようだ、査読者にも初学者向けにわかりやすいコメントをして欲しい等々である。しかし、初学者の論文の完成度が低かったり、投稿のしかたや査読対応の作法が知られていなかったりするのはもっともなことだ。そこで、様々な機会をとらえて、情報を発信していこうということになった。

集会の趣旨
 もちろん、編集者がラクをしようというのが今回の自由集会の趣旨ではない。投稿のしかたや査読コメントへの対応方法を初学者に伝え、不要な手間を省いてもらい、ストレスなく掲載に至る道をたどって頂こうというのが開催の趣旨である。
 査読を経て掲載された論文は誤りが排除され、主張が妥当なものとなる。そして、後に役立つ引用可能な文献となる。査読は科学的知見を残すために不可欠なしくみである。しかし、投稿者にとって査読者の批判を受け、編集者に判定・評価されることは、腹立たしかったり失望を招いたりしかねない。貴重な調査や観察の結果が論文として投稿されなかったり、投稿されたものの編集途中で査読コメントに対応し切れず取り下げられてしまったりするのでは、学界としても問題である。そのような残念な例をなくすための自由集会である。したがって、日本鳥学会誌編集者がオーガナイズするものの、他の鳥学研究誌を含め、初学者が和文論文をスムーズに掲載に持っていくための作業の進め方や心構えを考える自由集会と位置付けた。様々な立場から 4 名の方に講演して頂いた。
濱尾・新妻の趣旨説明 pdf ファイル (164 KB)

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写真 1.堀江玲子さんによる講演の様子.
1. 「初学者だった立場から-投稿者として良かったこと・困ったこと」堀江玲子 (NPO 法人オオタカ保護基金)
 演者は日本鳥学会誌に原著論文を複数発表し、2008 年度奨学賞を受賞した。自らの体験に基づいて、査読コメントへの対応を中心にこれから投稿する人への役立つ苦労話、助言を話して頂いた。投稿の手引きをよく読み細かい点まで従うこと、論文執筆に慣れた人に積極的に質問したり、助言を得たりすることの重要性が強調された。
堀江さんの講演スライド pdf ファイル (135 KB)

fig2
写真 2.池長裕史さんによる講演の様子.
2. 「文献として引用可能な『観察記録』とするために書くべきこと」池長裕史 (中央農業総合研究センター)
 演者は日本鳥学会記録委員と目録委員を務めており、他の観察者の新分布記録の発表にも多くの援助をしている。また、査読者としても適切で具体的なコメントをされている。そこで、記録報文(特に日本鳥学会誌「観察記録」)の書き方についてレクチャーして頂いた。編集委員会の方針ではなく私見として発表されたが、形態の記述や同定の規準の書き方は他誌への投稿を含めて参考になるものであった。
池長さんの講演スライド pdf ファイル (381 KB)

fig2
写真 3.新妻靖章さんによる講演の様子.
3. 「編集者・査読者との正しいやり取りのしかた」新妻靖章 (名城大学)
 日本鳥学会誌編集幹事の立場から、投稿のしかた、改訂要求・査読コメントへの応え方を本音で話してもらった。採否の最終判断の権限を持つ編集者に対して、必要な情報を伝えることの重要性が強調された。投稿時の手紙で論文の価値をアピールすること、査読コメント対応では個々のものにどのように対応したか、あるいは反論するのかを明確に説明することなど役立つことが多かったと思う。
新妻さんの講演スライド pdf ファイル (111 KB)

fig2
写真 1.江口和洋さんによる講演の様子.
4. 「一読,査読,誤読,功徳」江口和洋 (九州大学大学院)
 かつての日本鳥学会誌編集委員長であるベテランの演者から、査読の意義、あるべき査読、そして投稿者のあるべき態度が説明された。投稿者は査読コメントを改訂のヒントと考えて真剣に対応すること、査読者は依頼を原則断らず、審査だけではなく投稿者への手助けとなるコメントを手早く返すことなど重要なことがらが濃密に語られた。多くの人に、今回の講演スライドとともに、江口 (2001,レフリーの役割について.日本鳥学会誌 50: 46-50)を再読して頂きたいと感じた。
江口さんの講演スライド pdf ファイル (348 KB)

最後に
 集会には約 30 名の方に参加頂いた。熱心にノートをとる方も多かった。時間の都合から、講演内容への質問や意見交換の時間を十分取ることができなかったことをお詫びします。
 今回の集会やこの文章について、ご質問、ご意見がありましたら、濱尾 (hamao[at]kahaku.go.jp) までお知らせ下さい。和文論文の投稿が活発となり、編集がスムーズに進み、よい論文がどんどん公刊されるよう、これからも力を尽くしていきたいと思います。



受付日2009.10.06


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鳥はどこ?ここはどこ!鳥の移動を知るさまざまな取り組みと追跡機器

企画:時田賢一 (我孫子市鳥の博物館)
樋口広芳 (東京大学)
玉置晴朗 (数理設計研究所)
文:時田賢一

はじめに
通信機器のめざましい進歩にともない、その技術を鳥や哺乳類などの移動追跡に利用することが可能となっており、この追跡機器を利用して生きものの行動や生態の解明などに利用されています。この自由集会では、鳥の移動など知る手段としてさまざまな追跡機器を実際に使用し調査研究に取り組んでいる岩手大学の東淳樹さん、データーロガーでカワウを調査している筑波大学の有馬智子さん、ジオロケータでペンギンなどの海鳥を研究している国立極地研究所の高橋晃周さん、レーダーで渡り鳥の飛行高度など調査されているバードリサーチの植田睦之さん、実際に仕事でさまざまな追跡機器を利用している EFP の酒井智丈さん、さまざまなセンサー技術や通信機器を開発している数理設計研究所の玉置晴朗さん、衛星追跡で成果を上げられている東京大学の樋口広芳さん、そして新しい通信手法で GPS 位置情報を取得する機器を開発している数理設計研究所の矢澤正人さんに話題を提供していただきました。さまざまな通信機器等を使うことで、これからの調査・研究の参考になるのではないかと企画致しました。そこで、自由集会で話された話題の要約をご紹介いたします。

テレメトリーで鳥の位置を知る: 東 淳樹 (岩手大・農)
 無線信号などを用いて遠隔的に情報を得ることを「テレメトリー」と言う。そのことから,動物に機器を装着し,動物の行動,生理,環境パラメータなどを遠隔的に取得する方法を(バイオ)テレメトリーと一般に呼んでいる。テレメトリー利用の最大の目的は,正確な個体識別と,個体識別された個体のある程度正確な位置の推定が可能な点にある。送信機がその傾きによって送信間隔が異なるアクトグラム型送信機であれば,送信機の傾きを姿勢の変化ととらえ,送信機を装着した個体の行動を推定することができる。送信機で利用できる周波数帯は 30 MHzほどの低周波から 220 MHz ほどの高周波までである。ロケーション方法としては,2 点以上の離れた受信位置から電波を受信し,電波を最も強く受信する方向を地図上に線を引き,線が交差した場所を推定位置とする三角測量法が一般的である。これに対し,電波を最も強く受信する方向に受信者自身が移動して追跡動物に徐々に近づき位置を推定する方法を接近法という。得られた位置情報と推定した個体の行動から,行動圏と内部構造,生息地利用,日周行動などを知ることができる。テレメトリーにおいて得られた位置はあくまでも推定位置である。

データーロガーで鳥の位置を知る?カワウへのデーターロガー装着と回収方法の検討~: 有馬智子・熊田那央 (筑波大・生命環境)
 本講演では、その追跡結果とともに、手法の問題点と改善すべき点について述べる。
 データーロガー回収時も同様の方法でカワウを捕獲した。また、回収できた 3 個のうち 2 個が故障していたため、データが取れたのは 1 個だけであった。今回行った手法の問題点と改善点には以下のようなことがあげられる。まず 1 つめは、捕獲を行う時間帯である。そこで捕獲開始時間を午前 4 時半に早めたところ、空腹の個体が多いことから魚の摂食率が良くなった(摂食率約 78%)。2 つめは、データーロガーの装着方法である。今回はテサテープのみを使用して装着を行ったが、換羽や潜水の影響により、4 個のデーターロガーが回収する前に脱落してしまった。最後に、最後に、データーロガーの保護方法である。回収されたデーターロガーには嘴による傷は見られなかったが、密封されていなかったデーターロガーの内側には水が浸入してしまっていた。

ジオロケータで鳥の位置を知る: 高橋晃周・山本誉士 (国立極地研究所・総合研究大学院大学)
 ジオロケータ(geolocator)は動物装着型のデータロガーの一種であり、特に照度を連続的に記録してそこから動物の位置を推定するもののことをいう。照度の記録から日出没時刻を算出し、日長時間から緯度を、太陽の正中時刻から経度を推定する。装置が小型化できるため、近年、様々な動物の渡りの研究に利用されている。鳥類では、アホウドリ類、ミズナギドリ類といった海鳥類での研究例が多いが、鳴禽類(Wood thrush, Purple martin) でも使った例がある。位置の推定精度はかなり悪い(亜南極の例で186 km)。また、日長時間を使って緯度を推定するので、どの緯度でも日長時間が同じになってしまう春分、秋分の前後では緯度の推定ができない欠点もある。現在、誤差を含んだジオロケータのデータから動物の位置を解析するために、様々な位置補正・フィルタリングなどの解析手法が編み出されてきている。

fig2
垂直まわしのレーダー画像.上空 250~1250 m あたりにある白い点が東から西に渡る渡り鳥.
レーダーで鳥の位置を知る: 植田睦之 (バードリサーチ)
 たとえば,飛んでいる猛禽類の飛行位置を地図上に記入すること,アセスメント調査などでよく行ないますが,距離間というのはなかなかわからないもので,熟練した調査員ですら,記入した位置と実際の位置が驚くほど離れていることはよくあることです。鳥の位置を正確に定位する方法として国外ではレーダーが多くの研究に使われていましたが,国内では,わずかな事例を除きほとんど活用されていません。そこで私たちが行なっている,船舶レーダー,環境省の事業として行なった,気象庁の気象レーダーの調査を紹介しました。

・船舶レーダーを使った研究
 電波を出す方向により鳥の平面的な位置や飛翔高度等を明らかにできます。現在,私たちは,タカの渡り経路と上昇気流や地形状況との関係についての研究,渡り鳥の飛翔高度と風向風速の垂直分布との関係の研究を始めています。
・気象レーダーを使った研究
 24 時間毎日データ収集が行われている気象データとともに得られる鳥エコーを解析することで,渡り状況の季節変化や日周変化を知ることができます。

電波発信器によるテレメトリー調査 ?現場での実際?: 酒井智丈 ((有)エデュエンス・フィールド・プロダクション)
 テレメトリー調査を行う際、現在使用している機材やその使用法、位置を特定するまでの過程についてお話します。

ラジオテレメトリーに使用する機材
 ・発信器(英国 Biotrack 社製)
 ・受信機 (YAESU, FT-290mk II)
 ・八木アンテナ
 ・コンパス(方位磁針)
 ・携帯用 GPS 又は現地の地形図(現在地の把握)
 ・野帳(日時、気温、位置点の環境、対象個体の行動等を記録)

位置の特定については基本的に車で可能な限り近づき、受信機の感度を調節しながらアンテナで方向を特定する。2地点以上で同様に方向を特定し、位置点を推定する。

長所と短所  
長所
 直接現場に行く事により、個体の行動を目撃できる事がある(狩り、餌の解体等)。
 飛翔、パーチなどの情報が得られる。
 
短所
 慣れ、土地勘が必要。調査する人によるデータの精度の違い。
 個体が突然大きく離れると位置を特定するまでに大きな労力がかかる。
 山間部では精度が落ちる  

野生生物テレメトリー装置の開発状況: 玉置晴朗(数理設計研究所)
・違法ではないこと→微弱無線機または有免許の無線局
長距離をカバーできること、総務省が微弱無線機と規定している非常に微弱な電波を送信する装置またはアマチュア無線免許を要する
 従来は、微弱無線によればせいぜい50m程度、ピッと音を出す違法無線機でも 3 km ぐらいが限界だった。そこで、まずは通信技術の開発を発起して苦節 8 年。

2000/1 あらたな通信技術を開発する必要性を痛感
2003/1 スペクトラム拡散技術の新たな受信法が完成
2007/10 自然環境保護無線協会 NECORA を設立
違法性の問題は送信機を NECORA のアマチュア無線局(JQ1YUR)にすることで制限つきながらも合法性を維持している。
2008-9 通信機の開発と野外実験
従来法と同じ送信電力であれば 5-30 倍の距離能力を持つ。25-1000 倍の観測面積となる。一定周期での観測回数は電池による。20-25 グラムで 500 回、大型の鳥では大きな電池で製造して 2000 回以上の観測が可能。

fig2 fig2
100 μW 赤城山から 46 km. 実用機の数値計算 10 mW 赤城山から房総半島 150 km ぐらいの予想.

提供について
 鳥学会に参加して痛感するのは研究領域の広さだ。きまりきった完成品を提供して未来を狭めるより、研究内容に見合った最適システムを少数ずつ生産するのがよいと考えている。研究対象の多様さを考慮すると、研究者と電子技術者の意見交換を密にした最適設計を必要とする。したがって、研究者側の夢と希望を最新の電子通信技術で実現するために共同研究として提供することになるだろう。
 鳥類研究者は生態観測、電子通信技術を担当する側は工学的な知見(電子技術、電波伝搬)を利用する形態が未来を開く鍵だと考えている。

アルゴスシステムや GPS を利用した鳥の渡り衛星追跡: 樋口広芳 (東大・農・生物多様性)
 アルゴスシステムを利用した衛星追跡では、送信機から送られる電波は衛星の受信機で受信される。衛星はこの時に計測された周波数のずれや受信時刻など、 位置計算に必要な情報を地上に設置された受信局に再送信する。地上の受信局に送られた情報は、そこからさらに世界情報処理センターに転送されたのち、緯度と経度の位置情報などに変換される。衛星が電波を受信してから位置情報などが得られるようになるまで、早ければ 1、2 時間ほどである。インターネットなどを通じて得られる情報は、日時や緯度・経度、位置の精度などについての数値情報である。日本の時間にするためには、9 時間進ませることになる。衛星追跡に使用される送信機は、英語では Platform Transmitter Terminal、略して PTT と呼ばれ、送信周波数が 401.65 MHz ± 1.2 kHz に特定されている。野生動物用の送信機の重量は 10-100g ほどである。最近は、太陽電池方式の送信機も開発されている。太陽電池方式の場合には、電池の寿命は 2-3 年、長ければ 4 年である。送信機は鳥の背中や足、尾羽などに取り付ける。
 全球測位システム(GPS)を利用した衛星追跡もある。GPS 方式は、アルゴスシステム方式と違って、衛星からの電波を受信することによって位置を測定する。多数の衛星を利用することと関連して、一般にアルゴスシステムより位置精度が高い。静止位置の測定誤差は、数 m から数 10m と推定されている。GPS では受信機内に位置情報が蓄積されるので、その情報をあとでとり出す必要がある。現在では、GPS とアルゴスシステムを組み合わせた衛星追跡機器(Argos/GPS PTT)が開発されている。これは、GPS がため込んだ精度の高い位置データをアルゴスシステムによって定期的に送信するものである。

fig2
GPS 送信機の一例.
鳥装着型 GPS 送信機の開発: 矢澤正人1・時田賢一2・玉置晴朗1 (1: 数理設計研究所 2: 我孫子市鳥の博物館)
 私たちは、鳥への装着が可能な小型・省電力でありながら電波伝搬距離を飛躍的に延長する、高速同期スペクトラム拡散という新技術を用いた送信機を開発した。この送信機を GPS 受信機や小型電池と組み合わせて鳥に装着することにより、GPS 測位の精度で得た鳥の位置情報を、遠方の調査者に伝達することが可能となった。
 本装置は、重量-動作寿命、通信距離-アンテナ高さ、GPS 測位時間-測位精度、再送信回数-伝達の確実性など、トレードの関係にある要素を多く含む。鳥類の生態や調査の目的にあわせて設定を変更することにより、最良な調査設定を使用者が選択することができる。これまでに実施した実験で用いた送信機は、合法の無線局として無線局免許を取得している。以下に、主要な特徴と将来に向けた発展可能性の一部を示す。
形状と動作寿命例(測位時間間隔は任意に設定可能)
・42 × 22 × 11 mm 17 g GPS 測位 200 回
・42 × 22 × 12 mm 20 g GPS 測位 500 回
・63 × 38 × 18 mm 35 g GPS 測位 2000 回

fig2
上の図は,赤城山地蔵岳山頂 (1673 m,アンテナ高 5 m)に受信局を設置し,BirdGPS を装着した自動車(アンテナ高 2 m)で一般道?関越道を移動する実験をした図.通信距離は 47 km.送信電力 100 μW,送信アンテナ高さ 2 m の条件による事前シミュレーション上に実験結果を上書き(緑が通信可、赤は通信限界).
通信距離
・100 μW 出力の低電力送信による実例
・送信側 (平地 2 m) ? 受信側 (山地 1673 m) 46 km
・送信側 (水面 0.5 m) ? 受信側 (平地 2 m)  1 km
・送信側 (平地 2 m) ? 受信側 (山地 1673 m) 46 km

・通信距離延長の手法
 ・マストや自然地形を利用し、受信局のアンテナ高をできるだけ高くする
 ・受信局の複数設置
 ・固定受信局と移動受信局の併用
 ・渡りの経路上に校舎や社屋を持つ他の調査者との共同観測
将来に向けた発展可能性
 ・GPS 高度か気圧高度計を内蔵して利用し、より電波の飛ぶ飛翔中を狙って送信
 ・ 太陽電池を搭載し、小型化と長寿命化
 ・ 緯度経度で範囲を指定、渡りを始めるまではN日に1回、渡りを開始したらn時間毎に測位するなど、測位シーケンスに高い柔軟性を持たせる
 ・ 大型哺乳類などでは小型化の必要は無いため、大型電池で長寿命化
 ・ 長期間低頻度では GPS を毎回コールドスタート、短期間高頻度では常時測位
 ・ テレメトリやロガーの機能や手法を取り入れ、互いの長短所を相互補完
 自由集会に先立ち北大水産学部の周辺を鳥装着型 GPS を手に持って歩いて、水産学部の駐車場で置いた車の中で GPS 測位の精度で得た鳥の位置情報を受信しリアルタイムでパソコンでカシミール(フリーの地図ソフト)上にプロット(図 1, 2 参照)し自由集会で紹介しました。

fig2 fig2
Google Earth にプロット. カシミール上にリアルタイムにプロット.



受付日2009.10.19


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スズメなど一般種のモニタリング:現状と課題

企画:黒沢令子・長谷川 理 (バードリサーチ・エコネットワーク)
文:黒沢令子


スズメ Passer montanus は人間に最も身近な種だが、個体群の研究対象とはなってこなかった。そんな中、2006 年初冬に北海道中央部で起きた集団死をきっかけに、スズメの数の動向がマスコミや一般人の興味を惹くことになった。

 2006 年の集団死から丸 3 年を経た現在では、全国レベルで個体数を推定する試みや日本の個体群の遺伝的構造など様々なアプローチから知見が蓄積されてきた。今回は、これらの新知見を紹介すると共に、今後、スズメに代表されるような一般種についてモニタリングをしていく方法や課題について、情報提供者5名を依頼して会場と意見を交わしたいと考えた。

(1)「全国における、スズメの個体数およびその減少の推定事例」 三上修 (立教大学,日本学術振興会特別研究員 PD)
「日本におけるスズメの個体数」の推定を試みた。いくつかの生息環境ごとに巣密度を計測し、それぞれの環境の日本における面積を求め、その 2 つから、日本における巣の総数を、およそ 900 万巣、個体数をその 2 倍(一夫一妻を仮定)の 1800 万羽と推定した。ただし、推定方法に粗さがあるので、数千万羽と考えるべきであろう。
これほど多くいるスズメだが、一方で、減少しているという話をよく耳にする。そこで「スズメによる農業被害量」や「スズメの駆除個体数」の変動から、過去におけるスズメの増減を大まかに推定してみた。すると、1990 年ごろから現在までに、少なくとも 5 割、多ければ 2 割程度にまで減少している可能性がでてきた。
このスズメの急激な減少が事実だとして、これをどのように受け止めるべきなのだろうか?
今後、ますます起こりうる普通種の減少について、研究者がどのような態度をとるべきか、考えていく必要があるだろう。

(2)「北海道大学における長期モニタリング事例とスズメ個体数の現状」 ○藪原佑樹1・南波興之1・行成一俊1・黒沢令子2 (北海道大学野鳥研究会1・バードリサーチ2)
 北海道大学野鳥研究会では、大学構内で鳥類の動態を 1995 年よりモニタリングしている(徳永・黒沢 2006)。調査地では群集全体の多様性は 18 年間でじりじりと減少していた。生活史別にみると、特に夏鳥は種数、密度共に年々減少している。一方、鳥類全体の密度は 2006 年のスズメ集団死以後減少し、群集多様性(H')は増加した。群集多様性が変化した時期は、構内で優占種であるスズメの集団死の時期と一致しているので、スズメの密度が減少したことで群集多様性が増加に転じたと考えられる。
 長期モニタリングの要件を満たすための課題として、サークルの人数の年度ごとの変動、それに伴う方法や調査地の詳細な伝承、調査結果の入力・管理法などがある。さらに、得られた結果を他資料とつき合わせて解析する必要があるが、景観生態学や野生動物学、保全管理学などの分野の人材と協力して解析するシステムが必要である。今後、全国の大学や高校などの教育施設や自然観察団体でも長期モニタリングをすることが考えられるので、こうした課題の解消について知恵を出し合いたい。

(3)「日本におけるスズメ個体群の遺伝的構造」 泉洋江 (北海道大学大学院地球環境科学院)
 スズメは、人的環境に依存しながら、日本列島に広く分布している。そこで国内 26 個体群(南は沖縄から北は知床まで)を対象として、個体群の遺伝的構造を解析した。
 ミトコンドリア DNA 解析において、ハプロタイプネットワーク樹は一斉拡散型を示し、日本のスズメは近年に個体群の急激な拡大を経験していたことが示唆された。日本のスズメは、おそらく稲作が伝搬した約 5500-3300 年前に個体群の拡大を経験したと考えられるが、それ以前にすでにスズメは日本に生息していたと思われる。また、個体群ごとの出現ハプロタイプ頻度分布において地域性(北海道北部、本州と北海道南部、九州)がみられた。
 マイクロサテライト DNA 解析において、遺伝的多様性は南の島嶼個体群で低かった。遺伝的分化に海峡(島間)の距離が影響していることが示唆されたものの、海峡間の距離が短いと遺伝的分化は小さかったことから、狭い海峡ではスズメは自由に移動することが可能であるように思われる。また、遺伝的構造の地域性はマイクロサテライト解析においてもみられた。

(4)「日本における全国的なモニタリング調査」 平野敏明 (NPO 法人バードリサーチ)
 日本における全国的な鳥類のモニタリング調査は 4 種類ある。自然環境保全基礎調査(環境省: 1978 年~)の繁殖分布調査は約 20 年ごとに実施され,環境省のレッドリストの選定および改訂の基礎データとして利用されている。全国ガンカモ一斉調査(環境省: 1970 年~)は,全国の主要な湖沼で毎年同じ日に一斉調査をする。モニタリングサイト 1000 (環境省: 2003 年~)では,各地を代表する環境(1000 ヵ所)で今後 100 年間定期的に調査を実施する。鳥類は環境ごとに,森林・草原,里地里山,河川・湖沼・湿地,干潟,島嶼に分け,陸生鳥類,ガンカモ類,シギ・チドリ類,海鳥類とほぼ主要なグループを網羅するように計画・実施されている。一方,河川水辺の国勢調査(国土交通省: 1990 ~)は,全国の一級水系の河川・湖・ダム湖(109 ヵ所)を対象に,概ね 5 年毎にセンサスが実施されている。
 しかし、官制のモニタリング調査では、スズメなどの人里にいて個体数の多い普通種は生息状況の変化を検出しにくいなどの問題点がある。そこで,現行のシステムを補完し,一般の野鳥観察者にモニタリング調査の必要性・重要性をアピールする目的で,(NPO) バードリサーチは市民参加型のモニタリング調査を企画・実施している。
 「ベランダバードウォッチ: 2005 ~」には,年に二期(繁殖期と冬期)行なう「家での調査」と,家の周囲で通年、見かけた種と大まかな個体数を報告する「家の周りの調査」がある。さらに,冬期(12~2 月)に冬鳥の数を群れの最多個体数を概数で報告する「冬鳥ウォッチ: 2006 ~」がある。これまでに、冬鳥の経年的な渡来数変化など興味深い結果が得られつつあるが,調査参加者が少ないのが悩みの種である。このようなボランティアによるモニタリング調査は、わが国における鳥類の生息状況の変化を把握する上で重要となると考えられる。

(5)「ヨーロッパのイエスズメ調査・研究ネットワークについて」 田口文男(スズメネットワーク)
 欧州では日本のスズメと同じ生態的ニッチをイエスズメが占めており、その個体数は 1990 年代から現在までの間に激減している。「これは生物学的な問題だけではなく、人間自身の将来についても無視できない危険信号ではないだろうか(Summers-Smith)」という警告もある。そうした状況を踏まえて、2006 年の IOC(ハンブルグ)で開かれた「イエスズメ個体数減少シンポジウム」がきっかけとなり、WGUS (都市のスズメ属研究グループ)が結成された。それ以後、欧州の研究者が集まっての会合、情報の交換と共有がなされている(ロンドン: 2007 年 2 月、ニューカッスル: 2009 年 2 月、ピサ: 2009 年 3 月)。
 欧州では、英国の RSPB、BTO や各国の野鳥の会などでの個体数調査が広範囲で継続的にされている。WGUS(欧州 6 カ国とインド)は、イエスズメ個体数減少の原因究明を試みているが、まだ究明には至っていない。一方、育雛期に餌となる無脊椎動物が不足すると個体群が減少するという調査結果が出ている(Vincent, K. & RSPB)が、更なる要因の研究が必要だろう。また、WGUS は調査方法の統一を試みており、2009 年中にも最終案が提示される模様だ。
 日本でも北海道をはじめとしてスズメの個体数減少を示す状況証拠や研究結果がある(黒沢他 2006、藤巻・一北 2007、日本経済新聞 2009/5/11)が、確証を持つにはさらに情報量を増やすことが求められる。日本では、(1) スズメ個体数調査方法の統一への議論、(2) 研究者間、またアマチュアの野鳥愛好者間での情報共有と、(3) 日本の研究報告と世界の研究報告の情報交換と情報共有が必要だと思われる。

・参加者は 20 名程度あり、話題提供者 5 人の発表のそれぞれの後に会場からの質疑応答と意見をいただいた。主な意見や質問は以下のような点だった。(1: 三上発表、以下発表順に)統計記録からスズメなどの個体数を推定するにはバイアスが考えられるので慎重さが必要、(2) 鳥類モニタリングは生息環境と合わせて解析することが必要、(3) スズメの DNA 研究用資料を提供する方法について質問、(4) モニタリングの調査者のモチベーションを挙げる工夫について質問、(5) 欧州でのスズメのモニタリングなど学術論文になりにくいテーマの発表場所についての質問などだった。
 以上のようにスズメを始めとした人里にすむ一般種の個体群動態は、現在日本で行なわれている既成のモニタリングシステムではうまく捉えられないこと、そのためには、特定のモニタリングが必要なこと、さらに民間や私人が行なっているいくつかの方法を参考にしながら、方法を統一して、全国規模のモニタリングを行い、その情報を共有するシステムが必要であることが挙げられた。欧州などで行なわれている都市のスズメ属研究グループ(WGUS)の活動が一つの指針となると考えられた。



受付日2009.10.19


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-カワウを通して野生生物と人との共存を考える (その 12)-
衛星追跡とGPSアルゴスとバイオロギング

企画:高木憲太郎 (バードリサーチ)・日野輝明 (森林総合研究所関西支所)
文:高木憲太郎


fig2
写真 1.会場の様子(撮影: 加藤ななえ).
鳥類の移動の追跡方法にはいくつかありますが,そのうちの一つに捕獲した鳥に送信機やデータロガーを装着して行う研究方法があります。カワウでは,送信機が発する電波を衛星がキャッチして位置を測位するアルゴスシステムによる衛星追跡のほか,このシステムを利用して位置情報を衛星経由で回収するが,測位は送信機に搭載している GPS で行う GPS アルゴスや,GPS で測位した位置情報をデータロガーに蓄積しておいて,再捕獲してデータを回収するバイオロギングがあります。それぞれの方法には一長一短があり,得られる情報にも違いがあります。また,バイオロギングであれば,位置情報だけでなく,他のセンサーを一緒にすることで,鳥の詳細な行動を解析することもできます。今回の自由集会では,こうした機器をもちいたカワウの研究から得られた行動や生態,また,それぞれの機器の特製について話題を提供しました。


衛星追跡によるカワウの広域移動実態の把握
高木憲太郎(バードリサーチ 1),福田道雄(東京都葛西臨海水族園),石田朗(愛知県カワウ調査研究会),齊藤成人(弥富野鳥園),須川恒(龍谷大学),須藤明子(イーグレット・オフィス 2),片岡宣彦(鳥類環境),茂田良光(山階鳥類研究所),長谷川 理(エコ・ネットワーク),有馬浩史(10 神戸市立医療センター中央市民病院 免疫血液内科),齋田栄里奈(兵庫県森林動物研究センター),須藤一成(2),柴野哲也(2),加藤ななえ(1),徳田裕之(環境省自然環境局)

 ねぐらの個体数の季節変化から,カワウは季節的に移動して,利用するねぐらを変えていると言われています。しかし,成鳥の広域移動の確かな証拠は得られていませんでした。そこで,48 羽のカワウを捕獲し衛星追跡を行いました。今回はアルゴスシステムによる測位の仕組みとともに,調査結果について報告しました。
アルゴスシステムは,鳥に装着した送信機が発信する電波を人工衛星が受けとめて,その情報が地域受信局に送られて位置が計算されます。そのため,鳥を探したり,送信機を回収したりしなくても,研究室にいながらにして位置情報を得られるという点はこの追跡方法のメリットです。デメリットとしては,測位の頻度が少なく,精度も GPS に比べて劣る点が挙げられます。アルゴスシステムでは,測位にドップラー効果を利用しており,衛星が送信機に近づくときは波長が縮まり,遠のくときは伸びるので,それによって衛星と送信機の距離を求めて測位します。したがって,誤差が大きく,150 m から 1 km という誤差があります。カワウで 1 日 9 時間追跡していた時,9 回ほど測位が行われますが,誤差が 1 km 以下の精度のデータは,1 日平均 2 個以下でした。
 2006 年から 2008 年までの 3 年間に東京湾の第六台場,伊勢湾岸の弥富野鳥園,琵琶湖の竹生島でそれぞれ 6 羽,23 羽,19 羽のカワウを捕獲し,30 g のバッテリータイプの送信機を装着して放鳥しました。衛星追跡によって得られた位置データは,日の出 30 分前を基準に夜間と昼間に分離し,夜間のデータをもとに,既知のねぐらとの位置関係から各個体の日ごとのねぐらを推定し,そのねぐらと昼間のデータとの距離を計測しました。
 広域移動については,第六台場で捕獲したカワウで 8 月から 2 月の期間に沿岸から内陸への移動を追跡できたほか,弥富野鳥園で捕獲したカワウでは 11,12 月に木曽川・長良川・揖斐川の中流部への,1 月から 4 月の期間に伊勢湾岸から浜名湖や琵琶湖への移動を追跡することができました。琵琶湖で捕獲したカワウでは,6 月から 10 月の期間に長良川・揖斐川の中流部や木津川の上流部,吉野川の中下流部,広島湾への移動を追跡することができました。この結果から,特に伊勢湾と,木曽川・長良川・揖斐川中流部,琵琶湖の間での連携が重要だと言えます。


fig2
図 1.ある追跡個体のいた位置.一列の堤防の上にみごとに落ちている.
GPSアルゴスでわかるカワウのコロニー・ねぐらと餌場の季節変化
日野輝明 (森林総合研究所関西支所),石田朗 (愛知県森林・林業技術センター)

 日野さんからは,アルゴスと GPS を合体させた GPS アルゴスの送信機を,愛知県と岐阜県下 4 カ所のコロニー・ねぐらで装着した 8 個体のカワウの採食場所や季節移動について調査を行った結果を報告していただきました。GPS アルゴスは GPS で測位した位置情報をアルゴスシステムで回収する仕組みです。GPS は,アルゴスシステムによる測位と違い,衛星が時刻の情報を持った電波を送信しており,GPS 側でその電波を受けて,伝搬速度と時刻差から距離を求めて位置を得るもので,誤差は 25 m 以下にもなります。また,電源をソーラーパネルから得ているため,測位は 6 時間に 1 回と低くなりますが,複数年にわたる追跡が可能です。鵜の山で捕獲したカワウは,知多半島の東側,三河湾の岸に近いところで多く地点が得られていて,コロニーから 15 km 以内で採食しているようでした。森林公園で捕獲したカワウは,50 km 以内の 4 つのねぐら・コロニーを行き来して,河川や湖沼,河口や沿岸で地点が得られていました。内陸の輪之内で捕獲したカワウは河川でのみ採食していて,繁殖中でもねぐらを変えているのではないか,というデータも得られていました。弥富野鳥園で捕獲したカワウは,ねぐらを変えた個体と変えなかった個体がいて,どちらの場合も弥富野鳥園でねぐらをとっている時は,10 km 以内の河口と沿岸部で地点が得られていました。ここで見せていただいたスライドですが,びっくりしました。庄内川河口部には岸からちょっと離れたところに一列の堤防があって,いつも多数のカワウが休憩しているのですが,見事にその上にカワウのいた地点が落ちていました。これだけ高い精度で位置がわかるのであれば,採食地点の解析をしたいところです。潜水しているかどうかがわかる仕組みが組み込まれると,より研究が進むのではないかと思いました。


バイオロギングによるカワウの飛翔・採餌行動の解明
依田憲 (名古屋大学大学院 環境学研究科1),佐藤克文 (東京大学海洋研究所),新妻靖章 (名城大学農学部),田島忠,佐々木幸穂,黒木博文,藤井英紀 (1),井上裕紀子 (北海道大学大学院水産科学院)

 さまざまな鳥類にバイオロギング技術(動物装着型データロガーを用いた行動追跡)が使用されるようになり,カワウへの応用も進んでいます。依田さんからは,位置を記録する GPS と,飛翔・採餌行動を捉える加速度データロガーによって明らかになった,巣立ち後の幼鳥の飛翔・採餌行動の発達と,繁殖期の親鳥の採餌生態について報告していただきました。依田さんたちは,愛知県,岐阜県,三重県の 5 か所のカワウのコロニーで調査を行なっています。駆除個体から胃内容物の魚種組成や,巣での目視観察から餌の運搬頻度といったデータは得ることができますが,これらの方法だけでは,どこへ行って採食しているのか,どのように潜って採食しているのかなど,カワウの個体レベルの行動はわかりません。そこで,力を発揮してくるのがバイオロギングです。秒単位の行動のデータを連続的に得ることができます。例えば,深度ロガーをつけておけば,どれくらいの深さまで潜り,どれくらいの時間その深さに滞在していたのか,といったことがわかります。現在では,潜水深度以外にも明るさや加速度,心拍や脳波など色々な情報を記録するロガーが作られています。依田さんたちは,潜水深度・加速度ロガーをカワウの成鳥に装着して行動を調査しました。加速度ロガーからは,羽ばたきをしているかどうかや,体の姿勢を知ることができます。これによって,飛翔,採食,陸上での休息や,水上に浮いている時といった行動の頻度や時間がわかります。カワウは樹上に営巣することが多いのですが,ロガーを成鳥に装着してデータを得るためには,同じ個体を2度捕獲する必要があります。睡眠薬やロガーの遠隔切り離し装置を開発することで,克服していますが,まだ,データが得られている個体数は少ないようです。それでも,最大深度と潜水時間の相関や,多く潜水している時間帯などを知ることができていました。
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写真 2.加速度ロガーを着けたカワウ(撮影: 依田 憲).
 また,依田さんたちは巣内ヒナを捕獲してきて飼育し,GPS ロガーを装着して幼鳥の行動の発達を調査しました。GPS の測位の仕方は,日野さんが紹介されたアルゴス GPS と同じですが,追跡期間が短い一方,高い頻度で位置を記録できる特徴を持っています。これによって,具体的な飛翔経路や,飛翔速度がわかります。巣立ち直後と 1 か月後では飛翔速度は速くなり,1 回の飛行時間は長くなることがわかってきました。
 カワウについて,アルゴスシステムによる測位でできることは限られています。しかし,高い精度の位置情報が得られる GPS アルゴスや,高い頻度の位置情報や,羽ばたきや潜水といった行動のデータが得られるバイオロギングを用いることで,明らかにできることの範囲が広がります。捕獲やデータの回収などに課題はありますが,それを克服する技術を磨き,それぞれの機器の特徴をよく理解して使うことができれば,カワウの生態や行動の解明がもっと進むのではないかと期待しています。



受付日2009.10.19


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カッコウ研究の最先端

企画:三上 修1・内田博2・田中啓太3・佐藤望1・川添のぞみ4・上田恵介1
(1: 立教大,2: 比企野生生物研究所,3: 理研 BSI/ 学振 PD,4: 奈良女大)
文:三上 修


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いつものやわらかい口調で,カッコウ研究の面白さについて語る上田教授.あの口調で語られると,カッコウ研究の未来が開けてくるような明るい気分になる.
総括
はじめに三上 修(立教大)より簡単な趣旨説明とカッコウ研究の背景説明があり、その後 4 名の演者より、タイトル通り、最先端のカッコウ研究が紹介された。
 参加者は 30 名弱と少なめだったが、参加者の中には、これまでカッコウ研究の分野で重要な発見をなされてきた方々もいらっしゃっており、主催者側としては開始当初、緊張で身が震えるほどだった。しかし実際に始まってしまえば、その方たちから重要な指摘が出て深い議論をすることができた。
 最後は上田恵介(立教大)より「カッコウ研究にはまだまだ驚きが満ち溢れ、それが若者たちにより解き明かされる未来が訪れようとしている」との言葉をいただいた。その後、会場にいた人がほぼ全員が参加するといううれしい限りの飲み会に突入したのであった。その場でも、カッコウ議論に花が咲いたことはいうまでもない。
以下、演者の方々の発表内容について紹介する。


寄生者ホトトギスと宿主ウグイスとの関係
内田博(比企野生生物研究所)
 埼玉県の丘陵地で 2003 年から 3 年間、ホトトギスの繁殖生態調査を行った.
 ウグイスの産卵は 4 月中旬から始まり、ホトトギスは 5 月下旬に渡来して,6 月初旬から托卵を始めた.発見した 230 個のウグイスの巣は、見つけた時に既に半数が捕食されていた。卵を確認した 115 個のウグイス巣では、ホトトギスの渡来前の 4 月から 5 月の繁殖成功率は高く 36 % で、6 月から 7 月の繁殖成功率は 2 % であった。ホトトギスの托卵は 6 月以降だけに限ると托卵率は 46 % の高率になったが、繁殖成功率は 3.3 % と低かった.ホトトギスの卵は赤色無斑で宿主のウグイスの卵に非常に良く似ていた。托卵されたホトトギス卵は 17 巣で受け入られ,4 巣は巣が放棄されたが,ウグイスの巣からホトトギス卵だけが排除されることはなかった.
 調査地ではヘビなどによる高い捕食圧があり,ウグイスは再営巣を行う.そのためホトトギスには托卵可能な巣が継続的に供給されるので,高い托卵率を維持することはできたが,繁殖の成功率は低かった.


覚えた?え,忘れた?ーカッコウ宿主の心理学ー
田中啓太 (理研 BSI/学振 PD)
 自分の本当の子とは似ても似つかない托卵鳥の雛に,なぜ宿主は健気にも餌を運び続けるのだろうか.寄生者である托卵鳥の卵や雛を宿主はどう認識しているのか,そんな疑問に迫る研究をいくつか紹介した.
 鍵となるのは,雛になってしまえば托卵鳥は宿主の卵や雛を巣から排除できるということである.巣から卵を落とすカッコウの雛が有名だが,これにより宿主は自分の雛と直接見比べることができず,区別できるようにならない.実際,宿主の雛と一緒に育つ托卵鳥では,宿主の雛に対する擬態が進化しており,宿主の養育を確保している.
 卵であれ雛であれ,大切なのは宿主にとって鍵となる信号をうまく真似ることであり,それが例え部分的にであれ,托卵という戦略によって子孫を残せる大きな要因になっているのである.

 

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緊張しながらも,自分の研究を売り込む修士の佐藤君.
新説:ヒナ排除は適応的
佐藤望1・三上修1・徳江紀穂子1・Richard Noske2・上田恵介1 (1: 立教大, 2: Charles Darwin University)

 カッコウの宿主は托卵を回避するため、宿主ごとにさまざまな行動(カッコウの卵を排除など)を示す事が知られているが、カッコウがふ化すると、どんな宿主でもカッコウのヒナを育ててしまうというのが今までの通説であった。
 ところが我々の研究チームはオーストラリアに生息しているアカメテリカッコウの宿主であるハシブトセンニョムシクイはカッコウのヒナを巣外に持ち去る事を発見し、「Biology Letters」で報告した。
 この宿主とカッコウは2つの点で興味深い。一つは宿主によるヒナの排除行動、もう一つは、カッコウは宿主の卵を擬態していないが、ヒナの形態は宿主のヒナと酷似している事である。カッコウの卵擬態はよく知られており、これは宿主がカッコウの卵を排除するため進化したと考えられている。裏を返せばこの宿主はカッコウの卵を排除しないため、カッコウの卵擬態が進化しなかったと考えられる。実際、宿主によるカッコウの卵排除はほとんど観察できていない。
 自由集会ではこの宿主とカッコウを紹介するとともに、なぜ宿主は卵排除でなくヒナ排除を選んだのかを考察した。


fig2
育児寄生者(カッコウ)が特定のホスト種に托卵しながらも、たまに別のホスト種へも托卵する状況を仮定.
カッコウのホスト乗換え~数理モデルが示す未来~
川添のぞみ1・高須夫悟2(1: 奈良女・人間文化 2: 奈良女・理)
 鳥学者によって提唱されている「ホストが高い托卵抵抗手段を獲得する前に次々と新しいホスト種に托卵先を乗換えていくことで、育児寄生者は存続している」という育児寄生者のホスト乗換え仮説に関してモデルを作成し、「乗換えが本当に成功するかどうか」を数理モデルの立場から発表した。
 図のように特定のホストのみに托卵する複数の小集団の間で赤い矢印で示したような乗換えがある場合とない場合について確率論的個体群動態を解析し、育児寄生者集団全体 (P1 + P2 + P3 +...) の存続年数を評価した。
 数値的な解析を行うことで「乗換えが起これば育児寄生者集団は長く存続する」「乗換えるホスト種の数が多いほど育児寄生者集団は長く存続する」という 2 つの結論を提示した。
 今後の課題として、托卵を拒否する個体が含まれる場合、ホストの卵認識能力、卵排除率を変化させた場合、まったく托卵されない場所に営巣するホストが存在する場合といったさまざまな条件を加えた仮定の解析の必要性が示唆された。



受付日2009.10.20


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上関原子力発電所建設計画とカンムリウミスズメ -幸せな結末を求めて-

企画:早矢仕 有子 (札幌大)・佐藤重穂 (森林総研四国)・中村 豊 (宮崎大)・
藤田泰宏,福田佳弘 (日本海鳥グループ)・古南幸弘,山本 裕(日本野鳥の会)
文責:早矢仕 有子


 瀬戸内海西部の山口県上関町において、中国電力株式会社が進行させている原子力発電所建設計画に対しては、地元の漁業者および自然保護団体が反対運動を継続してきた。近年、建設予定地の周辺海域で絶滅危惧Ⅱ類のカンムリウミスズメ(Synthliboramphus wumizusume)の生息が確認されたことから、地元会員の要請を受け、2008 年度鳥学会大会において「上関原子力発電所建設計画に係わる希少鳥類保護に関する要望書」が総会で採択された。本集会では、総会決議後 1 年間の知見の蓄積を研究者および「長島の自然を守る会」が報告するとともに、中国電力が実施した「カンムリウミスズメ追加調査結果」の概要を、調査を指導した専門家が報告し、意見交換を実施した。


I. 上関原子力発電所建設地にかかる希少鳥類保護要望書をめぐる経緯
佐藤 重穂 (森林総研四国支所)

 日本鳥学会は 2008 年 9 月の大会において「上関原子力発電所に係る希少鳥類保護に関する要望書」を総会決議として採択した。

  上関原発をめぐっては、これまで地元の漁協などを中心として反対運動が繰り広げられてきたが、1999 年に中国電力(株)が環境アセスメントの調書を提出し、2001 年にはこのアセスメントの評価書が確定している。これに対して、日本生態学会は 2000 年と 2001 年に上関原発建設予定地の自然環境の保全を求める要望書を総会で決議したのをはじめ、スナメリ、ナメクジウオ、貝類などの希少な海産動物と沿岸生態系の保護を訴えてきた。
 一方、近年になってこの地域でカンムリウミスズメやカラスバトの生息が確認されるようになったが、これらはアセスメント調書に記載されていなかったことから、中国電力は追加調査を実施してきた。日本鳥学会の決議はこの調査結果について情報の公開と適切な影響評価を求めるとともに、山口県にはカンムリウミスズメの保全対策立案までは公有水面埋め立て許可をしないよう要望するものであった。しかし、2008 年 10 月に山口県は中国電力に対して埋め立て許可を出し、カンムリウミスズメの追加調査結果が 2009 年 9 月に公表されたことから、現在、着工されようとしている。

(注) 2009 年 10 月 7 日、中国電力は海面埋立工事に着手した。


II. 宮崎県枇榔島周辺のカンムリウミスズメについて
中村 豊(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター生物資源分野)

 現在、カンムリウミスズメは宮崎県、東京都伊豆諸島、三重県、高知県、福岡県、鹿児島県などの限られた島嶼及び韓国の一部の島嶼に記録がある。また近年 6 ~ 8 月に瀬戸内海で数十羽の越夏群が確認された(飯田 2007)。日本での推定生息数は 6000 ~ 10000 羽である(環境省 2004)。
 門川沖枇榔島周辺では主に 1 月頃から 5 月まで観察され、繁殖は 3 ~ 5 月に行い、巣は岩の割れ目や草の根元の穴などにつくり、巣材はほとんど使用せずそのまま土や石の上に 2 個産卵し、雌雄交代で 約 30 日間の抱卵を経てヒナが孵化する。離巣は孵化後 1 ? 2 日目の夜、親鳥の鳴き声に誘導され行われる。ヒナは数mから十数mの絶壁を転げるように飛び降り、親鳥の鳴き声に誘導され海上で合流し(中村 1997)、そのまま 6 ~ 7 時間かけて枇榔島から約 15 km 離れた位置まで移動する。その後は黒潮の縁を親子で北上すると思われる。ヒナへの給餌は、巣内では行わず孵化後 2 ~ 3 日目の夜明けに海上で行う。また、生後 2 年で枇榔島に上陸している例があることから、自然界での生存年数は 15 年以上であることが示唆されている。


III.中国電力による調査の経緯と結果 ー何がわかったのか、何がわかっていないのかー
藤田 泰宏(日本海鳥グループ)

中国電力(株)は、上関原子力発電所計画地点におけるカンムリウミスズメ追加調査結果に関する報告書を作成し(中国電力本社及び上関原子力発電所準備事務所にて閲覧可能)、その概要について記者発表を実施した(2009 年 9 月 3 日 http://www.energia.co.jp/atom/press09/p090903-2.pdf)。
  この追加調査に関しては、(1)法的拘束力を持つアセスメントではないこと、および、(2)対象種の生態に未解明な点が多い、など課題も残されている。
 ・報告書に記された結果と評価
 (1) 原子力発電所建設による改変地と発電所からの温排水による海水温上昇域海岸部での営巣は確認できなかった。周辺島嶼と比べ、営巣適地と考えにくく、営巣への直接的影響は小さいと考えられる。
 (2) 埋立区域洋上での生息確認はなかったが、海水温上昇域を含む周辺海域には出現した。
 (3) 周辺島嶼での営巣は確認できなかったが、営巣の可否の判断には至らない。
 (3) 秋期以外に出現が確認された周辺海域は、重要な採餌圏である。
 
 ・不明な点
 (1) 移動の大局的な経路
 (2) 洋上の分布と利用の詳細
 (3) 周辺島嶼での営巣の有無
 (4) 個体群の内訳、など
 
・補足
 陸上からの調査の可能性について質問を受けたが、時間内に回答できなかった。そのため、後日、陸上から見下ろす角度でのウミスズメ類の確認は非常に難しい旨を伝えた。


IV. 日本鳥学会 2008 年度大会総会決議後の「長島の自然を守る会」の活動とカンムリウミスズメ生息調査結果のまとめから
山本尚佳(長島の自然を守る会 副代表)

・総会決議後の活動
 2008 年 10 月 16 日 山口県に、中国電力による公有水面埋立免許申請を許可しないように求める署名(50,155 名)を提出
 2008 年 10 月 22 日 山口県知事が埋立免許申請許可。
 2008 年 12 月 2 日 「上関自然の権利訴訟」提訴。
 2009 年 2 月 19 日  山口県に「ウミスズメおよびカンムリウミスズメの追加確認に伴い公有水面埋立許可を取り消すよう求める」申し入れ。
 2009 年 3 月 11 日 中国電力へ「公有水面埋立および上関原発計画中止を求める」申し入れ。
 2009 年 8 月 20 日  上関自然の権利訴訟(第一回公判 山口地裁)
 2009 年 9 月 8 日  中国電力へ「埋立工事の中止と継続調査を求める」申し入れ。
 
 「長島の自然を守る会」として行ったカンムリウミスズメの生息調査(2008.4 ~ 2009.9)と事業者を含む複数の調査結果から同種が原発予定地周辺に繁殖期、非繁殖期を通じてほぼ通年生息しており、周辺海域での繁殖の可能性が否定できないこと、同海域に換羽期に生息することから予定地周辺海域がカンムリウミスズメにとって重要な場所であることが明らかになってきた。そうしたことからも1シーズンの繁殖調査で終わらせることなく調査を継続すべきこと、埋立工事や原子力発電所の運転に伴う「温排水」が餌資源をはじめとした海洋生態系に及ぼす影響を環境アセスメントの水準で評価し直す必要があり、近隣島嶼部で新たにオオミズナギドリの繁殖が確認されことからも拙速な環境改変は行うべきではないと事業者の中国電力や山口県および国に対して強く要請していくとともに、原発問題は「国策」との戦いなので、多面的かつ重層的に活動を進め、市民科学の確立をめざし自分たちの持ち場で裁判も含め原発建設計画の中止まで頑張りたい。


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上関原発予定地周辺島嶼部の貴重な動植物.
V. 上関原発計画予定地の海洋生態系の特徴~奇跡的に残された生態系と貴重な動植物の宝庫~
高島美登里(長島の自然を守る会 代表)

 上関原発予定地である長島周辺海域は、奇跡的とも言える貴重な生態系を有する場所である。その要因として(1) 1970 年代から始まった埋め立てや護岸工事・海砂採取などの開発を免れ、瀬戸内の原風景を残す場所であること。(2) 地理的に、豊後水道から流入する黒潮がぶつかる室津半島の先端に位置し、瀬戸内海では海水交換度の高い海域であること。(3) とりわけ原子炉が設置される埋め立て予定地の田ノ浦湾は、広葉樹林から供給された地下水と海底伏流水が 1 日最大 700 mm.も湧き出る瀬戸内海で数箇所しかない水循環のよい場所であることなどが考えられる。田ノ浦湾は世界で 4 例しか確認されていないヤシマイシン近似種や水産庁危急種であるナメクジウオの繁殖地であり、日本海特産種の海藻であるスギモクが飛び地的に生育する瀬戸内海最大の群落地である。また周辺海域はイカナゴなど低温性の低質生物が豊富で、天然記念回遊水面指定海域でも絶滅に瀕しているスナメリの繁殖場所でもある。田ノ浦湾は豊富な海藻群落と多種類の稚魚の生息地としても知られており、田ノ浦湾を中心とした海洋生態系の豊かさがカンムリウミスズメの生息やオオミズナギドリの繁殖などを支えているのではないかとの指摘が、日本生態学会や日本ベントス学会の研究者から挙げられている。中国電力による上関原発建設計画や埋め立て工事が絶妙なバランスを有する生態系にダメージを与え、カンムリウミスズメやオオミズナギドリなど希少な海鳥の生息や繁殖に悪影響を及ぼすのではないかと憂慮している。


VI. 山口県上関町海域でのヒナを含むカンムリウミスズメの確認
武石全慈(北九州市立自然史・歴史博物館)

 瀬戸内海での本種の生息状況は、例えば「レッドデータブックやまぐち」(山口県 2002)に「瀬戸内側東和町、沖家室島沖合いでも確認されている」と記される程度であった。しかし 2007 年以降の飯田知彦氏、長島の自然を守る会、中国電力、橋口大介氏ら、藤井格氏らの報告等により、瀬戸内海西部での存在は偶発的でないと考えられ繁殖可能性にも関心が持たれた。そこで私は山口県上関町海域で 2009 年 4 月 6 日~ 5 月 30 日に 11 回センサスを行なった。その結果、4 月上旬から 5 月中旬までに 5 回 19 地点で 34 羽の本種を確認した。特に、4 月 13 日には 11 地点で成鳥 20 羽を確認し、5 月 18 日には上関町八島沖(北緯 132 度 05 分 54 秒、東経 33 度 42 分 48 秒)で成鳥 2 羽とヒナ 2 羽を確認した。今後、繁殖該当時期の詳細な調査が求められる。また 2009 年には上関町宇和島でオオミズナギドリのコロニーも確認され(音声、成鳥、ヒナが中国電力、武石、飯田氏らにより順次確認)、同海域が複数種の外洋性海鳥の生息・繁殖の場であることが興味深く思われた。


 参加者からは中国電力調査報告に関し、調査方法の詳細を問う質問や、第三者の評価を得る機会の乏しさへの疑問の声などが寄せられた。さらに、日本野鳥の会自然保護室長 葉山政治氏より、カンムリウミスズメにとっての建設予定地の位置づけと、稼働後の影響も含めた評価の必要性が指摘された。
 総合討論の時間が確保できなかったことが悔やまれたが、異なった立場からの各話題提供者の報告はきわめて充実しており、知見を集積し意見交換を継続することで、「幸せな結末」へ少しは近づけると信じたくなった。



受付日2009.10.21


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編集後記


 今号は、山階鳥研の機関紹介と、毎年恒例の自由集会報告、さらにシンポジウム報告と盛りだくさんの内容となりました。きっと皆様に楽しんで頂けると思います。
 さて、第 1 号から丸 4 年間に渡り、副編集長を務めてきましたが、広報委員を退任するのに伴い、(年内に臨時号が出ない限り)今号が最後の仕事となりました。26 号にわたり、なんとか定期発行を続けてこられましたし、まあ自分の役目は果たすことができたかな、と思っております。
 鳥学会では、求められるままに、学会事務局員、広報委員、和文誌編集委員、大会実行委員、鳥の学校講師、そして和文誌や英文誌の査読など、「実働部隊」として奉仕してきました。しかし任期付き職という、将来の不安と仕事量が共に高く両立する立場で奉仕を続けることに少々息切れがしてきたので、我がままを言ってお休みを頂くことにしました。これからは、心身の健康に留意しながら、いっそう良い研究を成したいと思います。(副編集長)



 鳥学通信は、皆様からの原稿投稿・企画をお待ちしております。鳥学会への意見、調査のおもしろグッズ、研究アイデア等、読みたい連載ネタ、なんでもよろしいですので会員のみなさまの原稿・意見をお待ちしています。原稿・意見の投稿は、編集担当者宛 (ornith_letterslagopus.com) までメールでお願いします。
 鳥学通信は、2月,5月,8月,11月の1日に定期号を発行します。臨時号は、原稿が集まり次第、随時、発行します。







鳥学通信 No.26 (2009 年 11 月 1 日)
編集・電子出版:日本鳥学会広報委員会
百瀬 浩(編集長)・山口典之(副編集長)・
天野達也・染谷さやか・高須夫悟・東條一史・時田賢一・和田 岳
Copyright (C) 2005-09 Ornithological Society of Japan

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