2021年度 中村賞受賞理由

推薦根拠論文: Sawada, A., H. Ando, and M. Takagi. 2020. Evaluating the existence and benefit of major histocompatibility complex-based mate choice in an isolated owl population. Journal of Evolutionary Biology 33:762–772.
澤田明氏の論文は,高い標識率を誇る長期研究個体群である南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を対象に,性淘汰におけるMHCの役割を世代間の利益を含めて検討し,MHCに基づく選択が生じ近親交配を避けて交配していることを明らかにしている.本研究では,野外の個体群を対象にMHC遺伝子に対する雌による選り好みが存在していることを示し,生涯繁殖成功にもとづいて実証している.長期間の観察データと網羅的なDNAサンプルに基づき,野生個体群を対象に実証的な結果を示しているという点でオリジナリティが高いと評価できる.得られた成果は,配偶者選択の問題に進展を与えるもので,進化生態学的,行動生態学的に高い価値があり,鳥類学的にも重要な成果といえる.長期調査に基づくデータの蓄積があっての研究成果なので,これまでに候補者の属する研究グループによる多くの協力があったと考えられるが,本研究をまとめるためには野外調査,分子実験の解釈と取扱い,統計的解析の全てを高い次元で統合する必要があり,澤田氏自身の研究能力の高さがうかがえ,将来性も高く評価された.