2018年度 中村賞受賞理由

推薦根拠論文: Kato, T., Matsui, S., Terai, Y., Tanabe, H., Hashima, S., Kasahara, S., Morimoto, G., Mikami, O. K., Ueda, K. & Kutsukake, N. (2017) Male-specific mortality biases secondary sex ratio in Eurasian tree sparrows Passer montanus. Ecology and Evolution 7: 10675-10682.
 個体が子の性を雄と雌にどう配分するかという問題は,進化生物学・行動生態学にとって大きな問題のひとつである.鳥類でも性配分の偏りは報告されているが,どの時期にどのように性の偏りが生じるのかについての詳細は明らかになっていなかった.加藤貴大氏は,スズメを対象に,この性の偏りが産卵時から巣立ちまでのどの段階で生じているのか,その偏りはどのようなメカニズムで生じるのかという問題に取り組み,雌に偏る性比は産卵時には見られず,その後の胚発生の過程で雄胚が雌胚よりも高確率で死亡することによること,およびこの過程は両親の抱卵行動とは無関係に生じることを明らかにした.性比の制御過程を明らかにしたこの研究は他の動物種にも応用可能であり,鳥類学はもとより,生物学の広い分野で注目を集める重要な結果として高く評価できる.本研究で用いられた野外調査,細胞観察,孵化実験,分子実験などの手法の多様さと高い独創性,技術的・労力的困難さを乗り越えた実行力は,加藤氏の研究者としての高い能力を示している.共同研究者は多いものの,本研究の本質的な部分はほぼ全て加藤氏が主導して計画・実行しており,研究組織の運営能力も高いことが示唆され,今後の研究についても発展が期待できる.